映画『あん』 感想
樹木希林という女性が,ずっと気になっている。
亡くなってから,ますます,その魅力に惹かれている。
もっと前から知りたかった。
かなり昔にみたバラエティー番組「ぴったんこカンカン」で,自由に,あるいは真面目に,優しく,ときには達観した様子でしゃべる姿がとても印象的だった。
様々な作品に出演されていたから,訃報は,遠い人の話とは感じなかった。
この映画『あん』は,最後の主演映画だ。
実の孫でもある内田伽羅さんも出演している。
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ちょっと不愛想な中年男性の千太郎は,雇われ店長で,どら焼き屋「どら春」を経営している。「どら春」は,街の小さなどら焼き屋さんで,学校帰りの女子中学生が立ち寄るような感じの小さなお店だ。
どうも繁盛していない様子だが,ある日,店を訪れた徳江(樹木希林)を店員として雇うところから話は動き出す。徳江は,自称50年あんこを作ってきたという。
徳江のあんこのおかげで,お客さんは増える。
しかし,徳江はハンセン病であるという話が広まり・・・・・・
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(ネタバレ)
この映画の一大テーマは,無論,ハンセン病に対する差別であり,深刻な社会的病理を明らかにすることだ。徳江のうわさが広まるや否や,「どら春」は即座に閑古鳥が鳴く。
少し違う見方をすれば,この映画には(少なくとも)二重の【力関係】が潜んでいる。
<被差別者の徳江と社会>と,<オーナーと雇われ店長の千太郎>(オーナー=前科者の千太郎を都合よく扱う社会)だ。
*鳥かごのカナリア,女子中学生の会話内容からも,力関係がみえる。
その構造のなかで,千太郎は,徳江を守ろうとする。
要は,社会的に弱い立場にある千太郎が,同じく弱い立場にある徳江に手を指し伸ばしている。
差別問題を風化させない,というレベルの映画ではない。
社会をどういう図式でみていますか?あなたは何をしていますか?
そう問うてくる作品に思えた。
映画の大一番となる徳江のセリフはこうだ。
私たちは,この世を見るために,聞くために,生まれてきた。
だとすれば,何かになれなくても,
私たちは,私たちには,生きる意味があるのよ。
この言葉が頭から離れない。