mj-lionの備忘録

暇な法律家による,読書・映画等についての覚書です。

ユヴァル・ノア・ハラリ『21Lessons 21世紀の人類のための21の思考』 感想

『サピエンス全史』,『ホモ・デウス』で一躍有名になったハラリ氏の本だ。

 

タイトルどおり,人類が21世紀に立ち向かう世界について,21の視点から論じた力作である。

今後数十年,あるいはもう少し先の世界をざっくりとつかむことができる。

個々のレッスンは,広く浅く,ただし明確に,よどみのない言葉で書かれている。

 

文藝春秋が毎年出している『〇〇年の問題点』みたいな本と同様,いわば論点集のような本であるから,読者によって,気になった箇所は様々だろうと思われる。

 

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ぼくの心をとらえて離さないのは,テクノロジーが人間の内面をハックするという流れだ。幾度となく記述されるくだりではあるが,例えば,

 

 

テクノロジー自体は悪いものではない。もしあなたが,自分の人生に何を望むかを知っていれば,テクノロジーはそれを達成するのを助けてくれる。だが,人生で何をしたいのかわかっていなければ,代わりにテクノロジーがいとも簡単にあなたの目的を決め,あなたの人生を支配することだろう(p345)

 

といった記述がある。

すでにテクノロジーは,各局面における人間の意思決定を左右している。

記憶に新しいところでは,ケンブリッジ・アナリティカの事件では,テクノロジーの影響力が明らかとなった。EUの行方を左右するような大事な局面だった。

ぼーっと生きていると,自分に与えられる情報が,自分にとって「最適化」されたものとなっていることに気が付かない。

あるいは,「検索」という行為は,能動的に知識を得るものと思われるが,自分の好きなアカウントだけで固めたTwitterは,視野を制限する。

このテクノロジーの介入/利用は,加速するだろう。

生まれたときから,遺伝子や環境因子等に沿って,最適な情報が与えられ,最適な人生が送れるようにアシストされる時代がきっとくる。

 

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ぼくの関心の1つは,テクノロジーがどのように普及していくかという点にある。

今後訪れる社会では,テクノロジーに淘汰された人々が生まれる。ハラリ氏は,(仕事がない)無用な人々と呼ぶ。よくいう「AIが仕事を奪う」みたいな話である。他方,テクノロジーは,無用な人々をも救ってくれるだろう。中長期的には。仕事がなくても,充実した人生が送れるようにアシストしてくれる。

でも,無用な人々が生まれる時点と,そうした人々に充実した人生を提供できるようにする時点に,タイムラグが起きてしまうのではないか,と気になる。

テクノロジーは万能だよねという流れ,そんな進歩主義的な流れのなかで,道に取り残される人が出てこないはずがない,と思う。