mj-lionの備忘録

暇な法律家による,読書・映画等についての覚書です。

芥川賞候補作 古市憲寿『百の夜は跳ねて』・感想  ~この世界の様々な境界線について

テレビで見ない日がない?くらいの古市さんの本。 前作に続いて芥川賞候補作となったという意味でも話題作。古市さんの書く小説ってどうなるんだろう,という興味から手に取りました。 その結果,思いがけず素敵な小説に出会うことに。***主人公・翔太は…

ユヴァル・ノア・ハラリ『21Lessons 21世紀の人類のための21の思考』 感想

『サピエンス全史』,『ホモ・デウス』で一躍有名になったハラリ氏の本だ。 タイトルどおり,人類が21世紀に立ち向かう世界について,21の視点から論じた力作である。 今後数十年,あるいはもう少し先の世界をざっくりとつかむことができる。 個々のレッ…

西加奈子『i(アイ)』 感想

ある時期,今もかもしれないけど,この本がとても目立つところにあった。 タイトルがSFっぽいし,装丁も不思議な色合い。 気になっていた本に,最近ようやく手を出して,あっという間に読み終えた。 *** 主人公のアイは,端的にいえば,複雑なアイデンテ…

映画『イミテーション・ゲーム』 と、サイモン・シン『暗号解読』

サイモン・シン『暗号解読』に、小学生の頃どはまりした。あっという間に読みきったのを、とてもよく覚えている。当時、名探偵コナンヲタになり始めたばかりのぼくには完璧な本だった。ギリシャ時代の古典的な(とはいえよくできている)暗号から、エニグマ、…

永遠の不在証明/東京事変~映画名探偵コナン『緋色の弾丸』主題歌・考察

永遠の不在証明/東京事変 が、今回の映画名探偵コナン『緋色の弾丸』の主題歌と発表された。楽曲も閏日にリリースされた。 閏日というのも捻られていて、来年には「不在」である。永遠ではないが、「不在証明」の文脈に通ずる。この楽曲の考察は、すでにYouT…

「僕のいる場所」(乃木坂46)という<死別>をうたう曲

君のことを考えた 僕が死んだ日のことを・・・ から始まる,乃木坂46の曲を知っている人はどれくらいいるだろうか。 印象的なメロディーラインなので,表題曲以外にも関心を持ったことがあるファンであれば,きっとどこかで聴いたことを覚えているんじゃな…

映画『あん』 感想

樹木希林という女性が,ずっと気になっている。 亡くなってから,ますます,その魅力に惹かれている。 もっと前から知りたかった。 かなり昔にみたバラエティー番組「ぴったんこカンカン」で,自由に,あるいは真面目に,優しく,ときには達観した様子でしゃ…

ピアノに置かれたグラスの意味ーNo One But You(Only The Good Die Young)/Queen

No One But You(Only The Good Die Young)/Queen フレディ亡きあと,1997年に,3人で発表した曲だ。 www.youtube.com 天国のフレディに向けて作られた曲であるが,多くのクイーンファンにより,ときおり個性的かつ情熱的に,歌詞が訳されている。 その…

吉田裕『日本人の戦争観』と映画『この世界の片隅に』

歴史の説明をみていると,「その出来事って同時代的にはどう思われていたのかなぁ」なんて疑問が湧くことはないだろうか。 人々の時事に関する関心度は一様ではない。コロナウイルスに敏感な友人は大量のマスクを買ったというけど,そうでもない人はとりあえ…

『映画ドラえもん のび太の宝島』とハンス・ヨナスの未来倫理(2)

2 ハンス・ヨナスの未来倫理 『宝島』のテーマの一つは,家族愛である。これは泣けるくらいよくできている。この時点で,映画ドラえもんとしては,すばらしい作品だと思う。 もう一つのテーマは,未来倫理だ。今作はここが意味深い。 ハンス・ヨナスの『責…

『映画ドラえもん のび太の宝島』とハンス・ヨナスの未来倫理(1)

『映画ドラえもん のび太の宝島』,とても面白い! 近年の映画ドラえもんシリーズのなかでも,かなり好きな方だ。 ドラえもんの映画では,まず①大枠としての定番のストーリーがある。 トラブルに見舞われたのび太たちが,登場人物等の力を借りつつ,危機を脱…