mj-lionの備忘録

暇な法律家による,読書・映画等についての覚書です。

『映画ドラえもん のび太の宝島』とハンス・ヨナスの未来倫理(1)

映画ドラえもん のび太の宝島』,とても面白い!

近年の映画ドラえもんシリーズのなかでも,かなり好きな方だ。

 

ドラえもんの映画では,まず①大枠としての定番のストーリーがある。

トラブルに見舞われたのび太たちが,登場人物等の力を借りつつ,危機を脱し,ハッピーエンドを迎える。その冒険譚のなかで,子供に向けて,友情や家族愛を呈示してくれる。

加えて,近時では,『緑の巨人伝』などのように,一見して明らかに②時事問題・社会問題を背景にした内容となることもある。

本作品についても,未来倫理に関わる論点がストーリーに絡んでくるのだが,まずは純粋に本作品の面白ポイントを紹介していきたい。

 

映画の要旨としては,「宝島」を探しに行くこととなったのび太たちだったが,道中で海賊様の集団に襲われ,しずかちゃんが人違いに遭い,同集団に連れ去れてしまうところからはじまる(上記①)。その後,物語は,未来の人類保護という裏テーマに対面することとなる(上記②)

 

(以下ネタバレを含みます。)

 

1 映画の感想など

(1)タイトルのひっかけ

 タイトルから中身が想像されにくいことはたまにあるが(『ひみつ道具博物館』,『大魔境』とか。),そもそも『宝島』が「島」ですらないとは思わなかった。なるほどそう来たか!となる。

 *本当の「宝物」って何だろうという問いが示される。

 

(2)ハーバー家のストーリーと「ノアの箱舟計画」

 多くの映画ドラえもんでは,(のび太と対になるような)登場人物が現れる。しかし,本作品ほどに,映画固有のキャラクターについて深いストーリーを持たせることは少なかったのではないかと思う。

 未来に住むシルバー・ハーバー及びフィオナ・ハーバー夫妻は,共に研究者で,フロック(兄)とセーラ(妹)の二人の子どもがいる。ところが,母フィオナは5年前に研究が多忙で亡くなってしまう。

 ※ちなみに,しずかちゃんは物語冒頭,セーラに間違われて海賊に誘拐される。 

 シルバーは,フィオナの言った「子供たちの未来を頼むわね」という遺言を胸にしていた。しかし,とあるタイムトラベルの際に,未来の地球が破滅した姿を見てしまう(核戦争を想起させるような衝撃の画である)。それを契機に,フィオナを失った悲しみに囚われているシルバーは,人が変わり,「ノアの箱舟計画」を企てる。

その内容は,(ドラえもんらのいる)現在の地球の生態エネルギーを大西洋の海嶺から吸収し,それをエネルギー源として,「宝島」たる巨大な(海賊)船に人々を住まわせたまま,地球を脱出し,新しい星のもとで暮らそうというものだった。

同計画が実施されれば,エネルギーを失う現在の地球には尋常ならざる影響が及ぶ(シルバーは,その影響は「限定的」と述べる)。しかし,「子供たちの未来」を守るためには,ひいては人類が滅亡しないためには,「ノアの箱舟計画」以外に道はないと決断する。

 こうしてノアの箱舟計画」vs.ドラえもんたちへと展開する。

 ところで,フロック&セーラ兄妹のシルバーに対する態度は異なる。

 フロックは,変わりゆく父の姿に敵対心を覚え,「宝島」を脱出し,たまたましずかちゃんと入れ替わりに,のび太らと合流する。

 他方,セーラは,そんな兄の心のうちを理解しながらも,自身は「宝島」内のパン屋に残る。

 なんと緻密に仕組まれた家族像!と思ってしまう。

 

(3)のび太とシルバーのやりとり

  最終局面において,のび太ドラえもん,そしてフロック&セーラ兄妹(と救出されたしずかちゃん)は,シルバーを止めようと試みる。しかし,シルバーは「子供らにはわからないだろうが…」といいつつ,「(未来の)子供たちを守る」「(未来の)人類のためには多少の犠牲が必要である」として,聞く耳を持たない。

 この映画の一番のシーンがここで訪れる。のび太が叫ぶ。 

大人は絶対に間違えないの?僕たちが大事にしたいと思うことは,そんなに間違っているの? 

  しかし,この問い掛けすら無視したシルバーは,いよいよ地球からエネルギーを吸い取り始める。ここで,止めに入ったドラえもんが,球体化したエネルギー自体に巻き込まれてしまうが,のび太が命がけでドラえもんを救出する。

 シルバーがのび太に問う。「どうしてそこまでできるんだ……。」 

(シルバーとフロックが)親子で争うなんて,僕だったら悲しいから

  のび太の答えに,シルバーは「僕だったら……」とつぶやき,妻フィオナの病床でのシーンを想起する。フィオナは,隣で眠る幼子2人を横目に,こうつぶやいていた。 

2人には,他人の幸せを願い,他人の苦しみを悲しめる人になってほしい 

  フィオナの(おそらく)最期の言葉を思い出したシルバーは,「他人の苦しみを悲し」んでいるのび太の言葉に目を覚ましていく。

 

 

本当はここから裏テーマたる未来倫理へ行きたいけれど,次回につづきます。